【輸入通関】化学製品を輸入するなら化審法を知ろう!!
外国から貨物を輸入する際には、当該貨物が日本国内の法令による規制に抵触しないかどうかを確認し、抵触する場合には必要な手続きを経た上で輸入通関を行わなければなりません。通関において手続きが必要な国内法令をまとめて、「他法令」と呼んでいます。
化学製品を輸入する際に抵触する可能性のある法令はいくつかありますが、その中でも最もメジャーなものは「化審法」です。今回は、この化審法の概要についてご紹介いたします。
化審法とは?
正式名称:化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律
目的:人の健康を損なうおそれ又は動植物の生息・生育に支障を及ぼすおそれがある化学物質による環境の汚染を防止すること
規制の内容としては、以下の3つから構成されています。
化審法とは(METI/経済産業省)
- 新規化学物質の事前審査
→新たに製造・輸入される化学物質に対する事前審査制度- 上市後の化学物質の継続的な管理措置
→製造・輸入数量の把握(事後届出)、有害性情報の報告等に基づくリスク評価- 化学物質の性状等(分解性、蓄積性、毒性、環境中での残留状況)に応じた規制及び措置
→性状に応じて「第一種特定化学物質」等に指定
→製造・輸入数量の把握、有害性調査指示、製造・輸入許可、使用制限等
どんなものが対象物質?
まず大前提として、化審法における「化学物質」とは、「元素又は化合物に化学反応を起こさせることにより得られる化合物」と規定されています。非常に回りくどい言い方のように感じますが、対象物質かどうかを検討する上で、この定義が重要になります。
その上で誤解を恐れずに言うと、原則として「すべての化学物質」が化審法の対象です。ただし、例外が多数あります。下記にて詳しく見ていきましょう。
化審法の対象外となるもの① 「天然物」
天然の鉱山等から産出された石灰石(主成分:炭酸カルシウム)は化審法の対象外です。これは、上記の化学物質の定義である、「化学反応を起こさせることにより得られる」というポイントから外れるためです。
ただし、化学的に合成して製造した「炭酸カルシウム」は化審法の対象となるので注意が必要です。
化審法の対象外となるもの② 「元素」
元素(例えばアルミニウムパウダー(Al)、リチウムインゴット(Li)やヘリウムガス(He)など)は、化審法の対象外です。これは、上記の化学物質の定義における「化合物」に当たらないためです。「化合物」の定義は以下の通りです。
「化合物」とは、2種類(少なくとも1種は、H、He、B、C、N、O、F、Ne、P、S、Cl、Ar、As、Se、Br、Kr、Te、I、Xe、At又はRn)以上の原子が共有結合、イオン結合、配位結合等又はこれらの任意の組合せの結合によって結合した物質を意味します。
化審法における化学物質の定義・解釈について(METI/経済産業省) Q.3より
なお「合金」も、元素の混合物と解釈されているため、化審法の対象外です。
化審法の対象外となるもの③ 「化審法と同等以上に厳しい規制等が講じられているもの」
以下の法令に該当する貨物は、化審法第55条および第2条第1~3項に基づき、化審法の対象外となります。それぞれの該当法令に基づいた手続きを行うのみで良く、化審法については考慮する必要はありません。
- 食品衛生法、農薬取締法、肥料取締法、飼料安全法、薬機法の規制対象品
(化審法第55条に基づく) - 放射線障害防止法における『放射性物質』、毒劇物取締法における『特定毒物』、覚せい剤取締法における『覚せい剤、覚せい剤原料』、麻薬および向精神薬取締法における『麻薬』
(化審法法第2条第1~3項に基づく)
注意事項
※上記の通り、毒劇物取締法における『特定毒物』は化審法の対象外ですが、『毒物(特定毒物でないもの)』および『劇物』は化審法の対象です。また、麻薬および向精神薬取締法における『麻薬』は化審法の対象外ですが、『麻薬原料』は化審法の対象です。混同しないようにしましょう。
※輸入後の用途により通関時の規制が異なります。例えば、肥料用の硫酸アンモニウムは肥料取締法に該当するため、化審法は対象外となりますが、工業用の硫酸アンモニウムは化審法の対象となります。
化審法の対象外となるもの④ 「製品」
以下のようなものは、化合物ではなく「製品」として扱い、化審法の対象外とされています。それぞれ具体例(黄色マーカー部分)を見るとイメージしやすいと思います。
①=成型品、②=小分け製品 などと呼ばれています。
※ただし、政令で指定する第一種特定化学物質および第二種特定化学物質含有製品を除きます。
①固有の商品形状を有するものであって、その使用中に組成や形状が変化しないもの(例:合成樹脂製什器・板・管・棒・フィルム)。ただし、当該商品がその使用中における本来の機能を損なわない範囲内での形状の変化(使用中の変形、機能を変更しない大きさの変更)、本来の機能を発揮するための形状の変化(例:消しゴムの摩耗)や、偶発的に商品としての機能が無くなるような変化(使用中の破損)については、組成や形状の変化として扱わない。
②必要な小分けがされた状態であり、表示等の最小限の変更により、店頭等で販売されうる形態になっている混合物(例:顔料入り合成樹脂塗料、家庭用洗剤)
○化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律の運用について
(平成 30 年9月3日付け薬生発 0903 第1号・20180829 製局第2号・環保企発第 1808319
号厚生労働省医薬・生活衛生局長・経済産業省製造産業局長・環境省大臣官房環境保健部
長連名通知)
ただし、たとえ小売用の包装形態になっているものであっても、1種類の化学物質のみで100%を構成するものは「混合物」ではないため、上記②には該当せず、化審法の対象となります。
化審法に規定されている義務
化審法に規定されている主な義務は以下の通りです。
回答一覧 (METI/経済産業省) Q.1-06より
- 既存化学物質名簿等に記載されていない、新しい化学物質を製造・輸入しようとする者は、事前に届出をしなければなりません。その性状、毒性等について国で審査が行われ、規制対象となる化学物質か否かの判定を受け取るまでは製造・輸入することができません。ただし、審査が不要となる特例制度があります。
- 化学物質を製造・輸入した者は、その実績数量等を翌年度に届け出なければなりません。また、それらの物質について有害性情報を得た場合には、国に報告しなければなりません。国は、それらの届け出られた情報や既知見を用いてリスク評価等を行い、必要があれば規制措置を講じます。
- 化学物質の性状等に基づき、第一種特定化学物質に指定された化学物質については、製造・輸入の許可申請、取扱基準への適合や表示等を行わなければなりません。
輸入者としてまずなにをすべきか?
- 輸入貨物が化学製品である場合、すべての構成成分(100%分)のCAS No.を確認しましょう。
- (NITE-CHRIP)で全成分の化審番号を確認しましょう。(不純物であって1%未満のものを除く。)このとき、第一種特定化学物質、第二種特定化学物資の含有が無いかに注意してください。
- 輸入貨物が化審法の対象かどうかを確認しましょう。
- 化審法の対象となるものであり、かつ、化審番号が見つからない成分がある場合、経産省の相談窓口へ相談し、必要な手続きを行ってください。新規化学物質として届け出等が必要になる可能性が高いです。
<お問い合わせ窓口>
製造産業局 化学物質管理課 化学物質安全室
お問合せメールフォーム: https://mm-enquete-cnt.meti.go.jp/form/pub/kagaku/kannrika_toiawase
※「お問い合わせ種別」は「化審法」を選択してください。
輸入通関時の手続きは?
税関に対しては、輸入貨物に対応する「化審番号(別名:MITI NO.)」を提示することで、輸入が可能な化学物質であることを示すことになっています。混合物の場合は、構成するすべての成分の化審番号の提示が必要です。通関業者が輸入者に化審番号をお聞きするのはこのためです。
また、仮に新規化学物質(化審番号が無い化学物質)が含まれる場合は、経産省へ事前に届出等を行い、経産省の確認を受けたことを示す書類等を税関に提示する必要があります。
化審法対象外の場合は100%の成分を確認しなくてよい?
化審法の対象外となった場合、100%の成分情報がなくても化学製品の輸入は可能なのでしょうか?答えはNOです。なぜなら、化審法以外にも化学品に関する他法令は多数あり、それらに該当しない製品かどうかを確認するために、やはり全成分の確認が必要だからです。
主なところで言うと、毒物劇物取締法、麻薬及び向精神薬取締法などは化学物質名や含有量により規制対象かどうか決まるため、これらの物質が入っていないかどうかの確認のために100%の成分情報が必要になります。
まとめ
いかがでしょうか。今回は、化学製品の輸入とは切っても切れない法令、化審法についてご紹介いたしました。化審法の手続きや実際の運用は、馴染みのない方にとっては非常に難解です。「国内市場に出回っている化学物質なのに、化審番号が出ないのはなぜ?」「化審番号が分からない場合は何から始めたら良いの?」そんな疑問にも、当社では経験豊富な通関士が適切なアドバイスをさせていただきます。
化学製品の輸出入についてお困りのことがあれば、ぜひ当社までお気軽にお問い合わせください。